Q&A/インパクト・オフィサーに聞く現場の声

Q&A/インパクト・オフィサーに聞く現場の声

聞き手: 湯浅誠 加納愛
回答者:

  • ナタリー・ウォール クイーン・メアリー (ロンドン大学)リサーチ・インパクト・マネージャー
  • ジョー・レイキー キングス・カレッジ・ロンドン REFデリバリー・ディレクター
  • ケイティ・マッケン バース大学 リサーチ・インフォメーション/インパクト部長
  • レイチェル・ミドルマス ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスリサーチ・インパクト・マネージャー、キーラン・ブーラック インパクト・サポート・マネージャー 

―「インパクト」をどのように定義しますか。

レイキー 自分たちは何を達成しようとしているのか、誰に成果を届けたいのか、さらにはそれらの達成時期をどのように知るのか、ということを研究者に理解させることだと思います。私の同僚は、インパクトは新しいもので、欠点よりも利点が多いものだと言っていました。   

ミドルマス インパクトは、経済、社会、文化といった、学術界以外の基本的にすべてのものへ与える影響、変化、恩恵のことです。研究者がパートナーやオーディエンス、その他の学外の関係者と関わりをもつ場合、情報交換や意見交換も含めて、すべてがインパクトにつながっているのです。しかし、インパクトそれ自体は、実際にはその関わり合いの結果として起こるものなのです。

ウォール 私にとってインパクトとは、ものごとに対する姿勢の明らかな変化・変容です。例えば、計画されていたが実行されなかった政策もインパクトと捉えられるでしょう。それはとても基本的な定義なのです。つまりインパクトには、経済的、社会的、文化的なインパクトに加え、意識上のものや実践的なものなど、様々な種類があるのです。

 マッケン 私たちの研究が原因で、学術界や大学の外の世界で起こる変化、とでも言いましょうか。それが私にとっての実用的な定義です。しかし重要なのは、何かが以前と異なっている、何かが変わった、ということです。

― ケース・スタディを作成するために、研究者とどのように連携していますか。

レイキー それぞれのユニットが査定のためのケース・スタディを集めます。その後、どの研究にインパクトがあり、誰がインパクト・ケース・スタディを持っているのかを査定し、それからインパクトの全事例を見ます。そして、ニュースで取り上げられた人や強固なケース・スタディを持っている人を捜してまわらなくてはなりません。オフィサーたちはケース・スタディを見つけるために、ありとあらゆる手段にあたるのです。当然ながら、ケース・スタディの数が少ない場合が一番大変です。

ミドルマスとブーラック 私たちの大学(LSE)のリサーチ・イノベーション課は、研究者が申請書を作成する時点で情報提供をしています。補助金申請チームは、どのようなインパクトを計画し、そのためのリソースをどのように作るのかについて研究者たちと相談します。コミュニケーション課のスタッフは、研究者たちが自分の研究を学術界の外の世界に広める手伝いをします。そして私たちは、研究者が自分の研究がもたらすインパクトを示す支援をしています。私たちは情報の大半を、研究者への研究内容や成果活用についてのインタビューから得ています。読んだり聞いたりしたことから情報を得る場合や、研究者自身が進んで我々へ連絡をとってくれる場合もあります。研究者が率先してインパクトのケース・スタディを書くのが理想です。しかし、彼らがいつも時間に追われているのは理解していますので、私たちは要請に応じて書類作成や編集を手伝います。

私たちは研究者の味方であると感じてもらえるよう全力を尽くしています。2014年から大きな文化的変化があり、今では5年前とはまったく違う景色が広がっています。しかし、インパクト支援の方法にはすべての事例に当てはまるような汎用性のあるモデルはありません。各学部や学科にはそれぞれの文化があること、個々の研究者のインパクトに対する関心にも大きな違いがあることを理解するのが重要です。状況に応じて支援の仕方を変える必要があります。

ウォール インパクト・オフィサーが各研究者のもとを訪れ、彼らがどのような研究をしてきたのかを尋ねて、それを文書に記録します。研究者自身が、もし研究者が忙しい場合にはプロジェクト・チームの他の誰かが、自分たちの手でケース・スタディを記録することを推奨しています。その後、私のチーム・メンバーがそのケース・スタディを点検し、不足部分を補います。インパクトを示す証拠資料をどうすれば集められるかを考えるのです。場合によっては、どのようにすれば研究のインパクトをさらに高めることができるか提案することもあります。

― 研究者たちは、REFのインパクト評価に最初はどのような反応を示しましたか。

レイキー REFに「インパクト」が含まれると最初に聞いたとき、多くの人はひどいアイデアだと思いました。それが実際に起ころうとしているという事実を長い間受け入れられなかった人もいます。しかし今では当初よりずっと、そのアイデアを受け入れています。研究者と話しているとき、こちらの説明によって彼らがインパクトを理解し、連携に応じてくれるのを見るのは、素敵なことだと思います。

マッケン 必要なことだと分かっていたので、抵抗はなかったと思います。しかし、教職員にケース・スタディを見つけさせ、インパクトが何を意味するのかを理解させるのは難しかったです。そこが一番大変な部分だったと思います。ほとんどの人は、インパクトもREFの一部だから従うしかないと受け入れていたようです。だけどそれから、インパクトが意味するところを本当に理解し、最適なケース・スタディを見つけ出すことが大変でした。

― REFによって、研究文化は変わりましたか。

レイキー 研究者たちの働き方に多少の変化はあったように思います。もっと多くの人々にインパクトについて話したり、公的関与やそのためにすべきことについて考えたりさせる必要があります。しかし、インパクトがきちんと浸透するにはものすごく長い時間がかかるだろうと思っています。

ウォール インパクトという視点を身に付けることは、若手研究者には大変なことかもしれません。彼らはインパクトとは何なのかが分からないのです。ですので、私たちは博士課程の学生を教育し、研究キャリアの早い段階でインパクトについてどのように考えるべきかを教えています。研究職に応募すれば、インパクトについて尋ねられるのですから。そのようなことを考えさせ、早い段階でプロ意識を養うのです。彼らの多くはその価値を認めてくれています。ケース・スタディを書く時間がないと、非常に苛立たしく感じるかもしれません。そんなとき、インパクト・チームが支援をおこなうので、多くの研究者に喜ばれています。

マッケン 私が気づいた最大の変化は、研究インパクトとは何かということについての人々の意識の変容です。私たちは学内の新しい講師すべてを対象に、インパクトについての学内研修を行っています。徐々に、大学関係者たちのインパクトへの関わり方が変わるのを目にするようになりました。数年前は研究者たちが自分の研究に専念するなか、私がインパクトに関する質問を尋ねてまわっていました。その研究から誰が恩恵を得られるのかを考えるよう、彼らに促す必要がありました。今では、同僚の若手研究者の方がより高い意識をもっているので、彼らが研究のコラボレーションの可能性や利害関係者との様々な関わり方について提案しています。そのような変化を見られるのはとても素晴らしいことです。


雑誌「ScienceTalks」の「インパクト評価へ向け活気づく取り組み REF 2014から大学が得たものとは」より転載。

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